BRCA 遺伝子変異陽性の膵癌とオラパリブ (PARP阻害薬)

がん関連

膵癌に対するオラパリブとの付き合い方について私見を述べます。PARP阻害薬のオラパリブが、2020年12月に「BRCA遺伝子変異陽性の治癒切除不能な膵癌における白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法後の維持療法」としての適応が追加されました。承認の根拠となったのは海外第Ⅲ相試験のPOLO試験です。https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1903387
これをもって、膵癌の一次治療後の「維持療法」に新たな選択肢が加わったことで話題となりましたが、実臨床で「維持療法」という考え方が定まっておらず、そこでさらにオラパリブを使用する機会は非常に限られていると考えます。
 実際には、プラチナ製剤ベース (ほとんどが オキサリプラチン based の FOLFIRNOX) の一次治療を16週以上継続した時点で RECIST SD 以上だった場合、一次治療 (FOLFIRINOX) をそのまま続けるのか、オラバリブに切り替えるのかという選択肢についての話です。
 POLO試験は、「無治療+プラセボ」比較でしたので、厳密には一次治療継続メインテナンス vs オラパリブ の話ではありません。実際には、膵癌は治療を休止すると、アグレッシブに進行してしまうケースが少なくないため、「無治療+プラセボ」の対照は許容できません。また、 毒性などの観点から FOLFIRINOX 療法から オキサリプラチン や イリノテカン を抜いた維持療法 (メインテナンス) ならまだわかるのですが、無治療 (ストップ) としてしまう考え方も定まっていません。
 あと、BRCA測定について、いざ病的バリアントが判明した場合、現状のAMED 「小杉班」 https://www.amed.go.jp/news/seika/kenkyu/20200121.html の方針では、遺伝子外来受診が強く推奨されます。

さらに、コンパニオン検査費用が高額であったり、検体提出の作業が煩雑であったり、データ解釈・開示については、主治医による時間をかけた説明・同意など、正直なところ煩雑な事項が多いにもかかわらず大きな生存利益を見いだせない印象があるのもまた事実です。
 外科治療を念頭に置いた場合、周術期にオラパリブが必要となるケースはほとんど存在しないと考えます。周術期にあえて使用する機会があるとすれば、以下のケースでしょうか。
例1)    FOLFIRINOXをNACとして行い、16週以上SD以上が維持されても手術に至ることができず、毒性も強いことから維持療法としてオラパリブにスイッチ。
例2)    Upfront 手術後、転移・再発症例でFOLFIRINOXを選択し、16週以上SD以上が得られた症例で、毒性の観点から FOLFIRINOX の継続が難しいため維持療法としてオラパリブにスイッチ。
例3) 術前にBRCA病的バリアントが判明。NACでFOLFIRINOXを使用し手術。アジュバントとしてS-1よりもオラパリブの方がよいかも (保険診療として認められるかは別)。 

大場 大

大場 大

東京目白クリニック院長 医学博士 外科学・腫瘍学・消化器病学の専門医。大学病院レベルと遜色のない高度な医療が安心して受けられるクリニック診療を実践しています。

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大場 大

大場 大

外科医 腫瘍内科医 医学博士     1999年 金沢大学医学部卒業後、同第二外科、がん研有明病院、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科 助教を経て、2019年より順天堂大学医学部肝胆膵外科 非常勤講師を兼任。2021年 「がん・内視鏡・消化器」専門の 東京目白クリニック 院長に就任。これまでになかった社会的意義のある質の高いクリニックを目指す。書籍、メディア掲載、講演、論文業績多数。

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