お腹が痛い、でも調べても問題ないから精神科?『過敏性腸症候群』について

消化器関連

消化器の専門クリニックでもあるので、お腹のことで心配や不安を抱えている患者さんが多く受診されています。そのなかで「救急車を呼ぶくらい苦痛があったのですが、搬送先の病院では異常がないといわれてどうしたらよいか」、「昔からお腹の調子が弱くてほかの病院でいろいろ検査をしてもらっても問題がないと言われるだけ」、「薬をもらって飲んでいるけど、全然よくならない」と訴える患者さんが、最近非常に多いというのが印象です。なかには、うつ病だから精神科に行くように言われ、納得のいかない中学生や根拠もなく慢性膵炎と診断され、効きもしない薬を何種類も処方されているケースなどにも遭遇します。
 検査をしても異常がないから「過敏性(かびんせい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん)」と診断をつけるのはとても容易なことです。多くの医師はこの時点を境にして、急に症状に関心がなくなってしまうことがほとんどでしょう。あるいは、検査もしないで「ストレスのせい」で終わってしまい、なんの根拠もない個人お気に入りのパターン処方薬が出されるだけで、そこまででお役目ごめん。あとは何かあれば「心療内科や精神科に行ってくれ」という対応をされている患者さんが少なくありません。
 実際に心療内科に行った中学生や高校生は、何種類もの向精神薬が足し算で処方され、眠気などで明らかに学校生活の足枷となっていて、親御さんの気持ちを考えると不憫でなりません。もちろん、本当に精神科的なアプローチが必要な患者さんも一定数いらっしゃるのは事実ですが、製薬企業の営業さんに言われた通りの「過敏性(かびんせい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん)」の薬を処方したから、効果がなければあとは「わからない」、と無関心で突き放されてしまう冷たい診療が意外と多いようです。これは、ある意味、がん難民を生み出す構造にもよく似ているような気がします。

そこで、本ブログでは、「過敏性(かびんせい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん)」について少し丁寧に説明してみたいと思います。
 もちろん、見える大腸の病気で、大腸癌や大腸ポリープ、若年だと潰瘍性(かいようせい)大腸炎(だいちょうえん)やクローン病といった炎症性(えんしょうせい)(ちょう)疾患(しっかん) (IBD) など器質的な疾患が原因になっていないかを下部消化管内視鏡検査 (大腸カメラ) でしっかり確認をしておく必要はあります。併せて上部消化管内視鏡検査 (胃カメラ) もやっておいたほうがよいでしょう。なかには、ピロリ菌感染や胃食道逆流症 (GERD) 、機能性ディスペプシア (FD) という疾患がオーバーラップしていることもあります。
 そのほかに、腹部エコー検査で腸管以外の臓器、主に膵臓にも見える疾患がないかをチェックしておいたほうがよいでしょう。場合によっては、MRI検査まで行い、早期慢性膵炎の有無や膵外分泌能に問題がないか、膵管構造や膵実質の形態に異常がないかを当院では積極的に確かめるようにしています。実は、膵臓由来の症状である患者さんも少なくないからです。

検査で問題がなかったとしたら、医療者サイドの熱量が一気に失せ、異常がないから、わからないから「過敏性(かびんせい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん)」のお薬を処方しさえすればお役目ごめん、のように冷たく扱われてしまう診察風景は意外と多いはずです。
 また、患者さんの話を聞いていると、「精神科疾患だから、過敏性(かびんせい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん)と認めたくない」と言われる方が多いことに驚きます。表現としては、自覚、無自覚に依らず様々なストレスに対する防御反応が、身体症状としておなかに症状を引き起こす症候群 (シンドローム) のひとつとして考えれば、もう少し気楽にこの疾患と向き合えるのではないでしょうか。そして、実は「過敏性(かびんせい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん)」はなにも特殊な病気ではなく、ストレスフルな現代社会において非常にありふれた疾患であるということも理解しておいたほうが良さそうです。


疾患分布の実際は、日本人だと周辺アジア諸国と比べて若干多く12%ほど、割合として10人に1人くらいのありふれた疾患群です。なので、なにも構える深刻な病気ではないわけです。ただし、患者さんの心理的要因、ストレスの受け止め方など、当然ながら個々で異なるわけですから、それによって症状の内容や程度も様々です。したがって、通り一辺倒の薬を処方されたから万事が即座に解決するわけではありません。10ある症状が、お薬の力ですべてさくっとお悩み解決となればよいのですが、先ずは 6~7/10 レベルまで改善することを目指しながら、「焦らず気長に」この疾患と向き合っていく必要があります。あとは、患者さんとの良好なコミュニケーションと信頼関係の構築が不可欠です。症状が一向に良くならないのは「何かほかに原因があるに違いない」「原因がわからないのは耐えられない」「解決策を早くに出せ」と、結果的に病院を転々と渡り歩き、ドクターショッピングを繰り返している患者さんが非常に多い疾患だともいえるでしょう。そうなってくると、もはや何も手を出せなくなってしまい、ある意味、難民化してしまうことは必至です。

過敏性(かびんせい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん)は、病態としては精神・心理的因子と腸管機能異常や知覚過敏が複雑に絡み合った疾患で、決して単純なものではないことは認めないといけません。そうはいっても精神・心理的因子は、決して抽象的な暗い話ではなく、神経伝達物質、内分泌物質 (ホルモン)、サイトカインといわれる炎症性物質などの仲介役 (メディエーター) が、ひっきりなしにやりとりをしているメカニズムが背景にあります。目に見えない「ストレス」を物質ととらえることで、ストレスや緊張に「過敏」となり、それらへの防御反応としての身体 (腹部) 症状ととらえれば、必ずしも暗い「メンタルの病気」として考える必要はありません。
 ほかにも、腸内細菌叢の異常 (dysbiosis)による粘膜透過性や脳腸相関、免疫システムの活性化と粘膜微小炎症、さらには遺伝子学的要因なども重要な原因メカニズムとして考えられ、まだまだすべてが解明されていない疾患であることも理解しておく必要があります。だからこそ、いま分かっているひとつひとつの病態を意識しながら、「焦らず気長に丁寧な個別化診療」が求められます。薬剤の選択についても、それら作用機序が常に念頭に置かれながら、時間をかけて個々に合った治療薬の継続的な調整も必要です。
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最後に、食事因子 (Food factor) についても述べておきます。食事療法の有効性について、明確なエビデンスが乏しいと言われがちですが、そうはいっても日常の食生活の中にも原因となる因子は必ずあるはずです。そこで、「FODMAP」については知っておいてもよいでしょう。


Fermentable (発酵食品)
Oligosaccharides (オリゴ糖)
Disaccharides (二糖類)
Monosaccharides (単糖類)
Polyols (ポリオール)

これら「FODMAP」は、小腸内で消化・吸収がされにくい糖類の総称です。これらの糖類を多く含む食事を摂取すると、消化されにくい糖類がそのまま大腸に入り、大腸内で発酵し、ガス産生を起こしたり、浸透圧によって腸管内腔に水を貯留させることで、便秘・下痢・腹部膨満などといった過敏性(かびんせい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん) 特有の症状を惹起することが言われています (鈴木秀和氏 日消誌 2020; 117: 840-855)。したがって、下記に示すような、FODMAP 制限食である「低 FODMAP ダイエット」が有効である可能性もありますので、是非とも食事面からのサポートも積極的に行ってみてはいかがでしょうか。

(鈴木秀和氏 日消誌 2020; 117: 840-855 より抜粋)
大場 大

大場 大

東京目白クリニック院長 医学博士 外科学・腫瘍学・消化器病学の専門医。大学病院レベルと遜色のない高度な医療が安心して受けられるクリニック診療を実践しています。

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大場 大

大場 大

外科医 腫瘍内科医 医学博士     1999年 金沢大学医学部卒業後、同第二外科、がん研有明病院、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科 助教を経て、2019年より順天堂大学医学部肝胆膵外科 非常勤講師を兼任。2021年 「がん・内視鏡・消化器」専門の 東京目白クリニック 院長に就任。これまでになかった社会的意義のある質の高いクリニックを目指す。書籍、メディア掲載、講演、論文業績多数。

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