お腹が痛い…調べても問題ないから精神科?過敏性腸症候群について

消化器関連

クリニックを開設してから、もうすぐ1か月半が経ちます。消化器の専門クリニックでもあるので、お腹のことで心配や不安を抱えている患者さんが多く受診されています。そのなかで「救急車を呼ぶくらい苦痛があっても搬送先の病院では異常がないといわれてどうしたらよいか」、「昔からお腹の調子が悪くてほかの病院でいろいろ検査をしても問題がないと言われるだけ」、「薬をもらって飲んでいるけど、全然よくならない」と訴える患者さんが非常に多いというのが印象です。なかには、うつ病だから精神科に行くように言われ、納得のいかない中学生や根拠もなく膵炎と診断され、効きもしない薬を何種類も処方されているケースなどにも遭遇します。
 検査をしても異常がないから「過敏性(かびんせい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん)」と診断をつけるのはとても容易なことです。型のごとくの薬が処方されるだけで、あとは心療内科や精神科任せにされている患者さんも少なくありません。向精神薬が足し算で増やされている中学生や高校生がいて、眠気などで明らかに学生生活の足枷となり親御さんの気持ちも考えると不憫でなりません。もちろん、本当に精神科的なアプローチが必要な患者さんもいらっしゃるのは事実ですが、製薬会社の営業担当に言われた通りの「過敏性(かびんせい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん)」の薬を処方したから、効果がなければあとはわからない、関係がないかのように、突き放した冷たい診療が意外と多いようです。これは、ある意味、がん難民を生み出す構造にもよく似ているような気がします。

そこで、本ブログでは、「過敏性(かびんせい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん)」について少し丁寧に説明してみたいと思います。
 もちろん、見える大腸の病気で、大腸癌や大腸ポリープ、若年だと潰瘍性(かいようせい)大腸炎(だいちょうえん)やクローン病といった炎症性(えんしょうせい)(ちょう)疾患(しっかん) (IBD) など器質的な疾患が原因になっていないかを下部消化管内視鏡検査 (大腸カメラ) でしっかり確認をしておく必要はあります。併せて上部消化管内視鏡検査 (胃カメラ) もやっておいたほうがよいでしょう。なかには、ピロリ菌感染や胃食道逆流症 (GERD) 、機能性ディスペプシア (FD) という疾患がオーバーラップしていることもあります。そのほかに、腹部エコー検査で腸管以外に見える疾患がないかもチェックしておいたほうがよさそうです。場合によっては、CT検査まで行われることもあるでしょう。それらいずれの検査でも問題がなかったとしたら、それまでの医療者サイドの熱量が一気に失せ、異常がないから「過敏性(かびんせい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん)」のお薬を処方しさえすればお役目ごめん、のように冷たく扱われていないでしょうか。

患者さんの話を聞いていると、「精神科疾患だから、過敏性(かびんせい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん)と認めたくない」と言われる方が多いことに驚きます。表現としては、自覚、無自覚によらず様々なストレスに対する防御反応が身体化し、おなかの症状も引き起こす症候群 (シンドローム) のひとつと考えれば、もう少し気楽に疾患と向き合えるのではないでしょうか。


疾患分布の実際は、日本人だと周辺アジア諸国と比べて若干多く12%ほど、割合として10人に1人くらいのありふれた疾患群ですから、なにも構える深刻な病気ではないわけです。ただし、患者さんの心理的要因、ストレスの受け止め方など、当然ながら各々で異なるわけで、それによって症状の内容や程度も様々となります。したがって、通り一辺倒の薬を処方されたから万事が即座に解決するわけではありません。そのあたりの良好なコミュニケーションや診療の丁寧さがないと、症状が一向に良くならないのは当然です。結果的に病院を転々と余儀なくされてしまう患者さんが少なくないということです。

過敏性(かびんせい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん)は、精神・心理的因子と腸管機能が複雑に絡み合った疾患で、たしかに単純なものではありません。そうはいっても精神・心理的因子は、決して抽象的な暗い話ではなく、神経伝達物質、内分泌物質 (ホルモン)、サイトカインといわれる炎症性物質などの仲介役 (メディエーター) が、ひっきりなしにやりとりをしているメカニズムが背景にあります。目に見えない「ストレス」を物質ととらえることで、防御反応としての身体症状ととらえれば、必ずしも暗い「メンタルの病気」として考える必要はありません。
 ほかにも、腸内細菌、粘膜透過性、粘膜微小炎症、さらには遺伝子学的要因なども重要な病態として考えられ、まだまだすべてが解明されていない疾患であることも理解しておく必要があります。だからこそ、いま分かっているひとつひとつの病態を意識しながら、気長に丁寧な個別化診療が求められます。医師が主観で好む〇〇のひとつ覚え的な処方やパターン化された軽薄な診察のみでは、良くなるものも良くはなりません。薬剤の選択についても、作用機序が常に念頭に置かれながら、時間をかけて個別に合った治療薬の調整が望まれます。
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大場 大

大場 大

東京目白クリニック院長 医学博士 外科学・腫瘍学・消化器病学の専門医。大学病院レベルと遜色のない高度な医療が安心して受けられるクリニック診療を実践しています。

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大場 大

外科医 腫瘍内科医 医学博士     1999年 金沢大学医学部卒業後、同第二外科、がん研有明病院、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科 助教を経て、2019年より順天堂大学医学部肝胆膵外科 非常勤講師を兼任。2021年 「がん・内視鏡・消化器」専門の 東京目白クリニック 院長に就任。これまでになかった社会的意義のある質の高いクリニックを目指す。書籍、メディア掲載、講演、論文業績多数。

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