【論文紹介】HER2陽性胆道癌という新たな疾患カテゴリーに注目

がん関連

乳癌、胃癌に引き続き、「HER2陽性胆道癌」という疾患カテゴリーとして、将来的に新たな治療戦略が期待されます。

https://www.thelancet.com/journals/lanonc/article/PIIS1470-2045(21)00336-3/fulltext

背景:転移性胆道癌に対する全身化学療法オプションは少なく、患者の全生存期間の中央値は1年未満である。 MyPathway (Basket試験) は、米国食品医薬品局 (FDA) が承認している分子標的薬の中で、適応のがん種を越えて潜在的に有効性が期待できる薬剤かどうかについて、バイオマーカーに基づいて症例をセレクションして有効性を検討した前向き試験である。

目的: HER2陽性の胆道癌を絞り込み対象として、乳癌で標準治療である抗HER2抗体薬 ペルツズマブ(パージェタ)+トラスツズマブ(ハーセプチン) 療法の有効性を前向きに検討する。

方法:MyPathway (Basket試験) は、非ランダム化、多施設共同、非盲検、2a相試験で、米国23施設から、HER2増幅 and/or HER2過剰発現が確認されたPS 0-2、治療歴のある18歳以上の転移性胆道癌患者が抽出され登録された。ペルツズマブ(初回840mg、その後3週間ごとに420mg)とトラスツズマブ(初回8mg/kg、その後3週間ごとに6mg/kg)が静脈投与され、主要評価項目はRECIST ver1.1に基づいて,治験責任医師評価による客観的奏効割合とした.すべての症例において有害事象も調査した。本試験は、ClinicalTrials.gov(NCT02091141)に登録され、現在も進行中。https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02091141

結果: 2014年10月28日~2019年5月29日の間にMyPathway HER2陽性胆道癌コホートに登録された39例の患者について解析した。追跡調査期間の中央値は8.1カ月。39例中9例が部分奏効 PR 、客観的奏効割合23%。病勢コントロール割合は51%。胆嚢癌、乳頭部癌に限ると奏功割合は30%以上であった。グレード3-4の有害事象は39例中18例(46%)、主なものはASTの上昇とALTの上昇であった。入院を要する重篤な有害事象、治療関連死亡例はなかった。

結語:前治療歴のあるHER2陽性の転移性胆道癌患者において、治療の忍容性は良好であった。主要評価項目である奏効割合の結果より、ペルツズマブ+トラスツズマブ療法は、ランダム化比較試験に向けて有望な試験治療である。

問題点: 本研究は、Basket試験の中での小サンプル、サブグループ解析であり、ランダム化比較試験で検証された結果ではない。主要評価項目である奏功の判定を治験責任医師が自ら行っているバイアスがある。HER2測定の際、サンプルの品質保証の不備や測定方法にばらつきがある。

大場コメント
昨今、胆管癌領域において、免疫チェックポイント阻害剤への期待や個別化ゲノム診療が注目されている一方で、リアルワールド (国内) においての標準治療薬は、いまだに GEM (ゲムシタビン), CDDP (シスプラチン), S-1 (エスワン) の3剤のみであり予後不良ながん腫であることに変わりはない。本試験の対象は、ほとんどの症例でセカンドライン以上の前治療が入っているほぼサルベージに近い対象にもかかわらず、一定の奏効割合と生存利益が示された。とりわけ、胆嚢癌、乳頭部癌に対する治療奏功が顕著な印象である。
 既知の報告では、HER2陽性率について胆嚢癌の約19%、肝外胆管癌の17%、肝内胆管癌の13%、乳頭部癌5%であり、その発現割合は乳癌や胃癌の場合と大きく変わらず、決して無視できない。胆嚢癌や肝外胆管癌では、胃癌でのHER2発現率と遜色ないことから、HER2陽性胆管癌という疾患カテゴリーとしての新たな治療戦略 (周術期、術後補助、緩和的治療) が期待される。

大場 大

大場 大

東京目白クリニック院長 医学博士 外科学・腫瘍学・消化器病学の専門医。大学病院レベルと遜色のない高度な医療が安心して受けられるクリニック診療を実践しています。

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大場 大

大場 大

外科医 腫瘍内科医 医学博士     1999年 金沢大学医学部卒業後、同第二外科、がん研有明病院、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科 助教を経て、2019年より順天堂大学医学部肝胆膵外科 非常勤講師を兼任。2021年 「がん・内視鏡・消化器」専門の 東京目白クリニック 院長に就任。これまでになかった社会的意義のある質の高いクリニックを目指す。書籍、メディア掲載、講演、論文業績多数。

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