国内製薬業界に潜む不都合 5-FU問題

がん関連

抗がん剤 「5-FU」 注射薬をどうしても卸すことが不可能だと協和キリンの営業所長が謝罪に来られました。アブラキサン 問題で、膵がん患者さんにとって重要な治療法をひとつ失い、代替として FOLFIRINOX や Liposomal Irinotecan (nal-IRI) オニバイド療法を予定していた患者さんが標準治療を受けられないことになります。これが意味するのは、根拠あるすべての最善治療が、メーカーの都合、国内製薬業界の都合によって受けられないということです。こうした事態は倫理的に許されるのでしょうか。どうやら、シェアを独占していた唯一の後発品 (ジェネリック) を扱う東和薬品が、急遽、供給制限をかけたことが発端のようですが、患者さんに向けた透明性のある情報提供をなにも行っていません。この薬品会社の企業体質は大丈夫でしょうか。もちろん、膵がん患者さんのみではありません。胃がん、大腸がん患者さんにとって FOLFOX や FOLFIRI 療法を失うことになります。他がん腫でも、5-FU を軸とした重要な治療法があります。一刻も早く、国内製薬業界にはびこる膿の排出と改善策を求めます。

追伸:2022年7月になっても状況は一向に変わりません。すでに、アブラキサンは供給制限なく市場に出回るようになり、迅速な企業努力の成果がみられていますが、協和キリンと東和薬品は、いまだに「5-FU」の生産、流通を広げる努力が微塵もみられません。前年度の卸成績に準じて、限定供給をしているというのが口癖のようですが、当院のように開業してまだ1年ほどしか経っていないため、前年度の卸成績は「ゼロ」で、×「ゼロ」が今後もずっと継続することを意味します。患者さんの命に係わる幾多の治療ニーズがあるにもかかわらず、薬品会社の都合のみで、治療を提供できない、あるいは治療が受けられない現実は到底許しがたいものと考えます。高価な薬品であれば、ほいほい営業に勤しむくせに、安価な「5-FU」の話になると一気にトーンダウンしてしまう腐りきった国内製薬企業はもはや要らないでしょう。後発品 (ジェネリック) の意味合いもよくわかりませんが、芸能人をテレビCMに使っている暇があれば、少しでも国内のがん患者さんのために生産力をアップしろと言いたいです。

大場 大

大場 大

東京目白クリニック院長 医学博士 外科学・腫瘍学・消化器病学の専門医。大学病院レベルと遜色のない高度な医療が安心して受けられるクリニック診療を実践しています。

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大場 大

大場 大

外科医 腫瘍内科医 医学博士     1999年 金沢大学医学部卒業後、同第二外科、がん研有明病院、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科 助教を経て、2019年より順天堂大学医学部肝胆膵外科 非常勤講師を兼任。2021年 「がん・内視鏡・消化器」専門の 東京目白クリニック 院長に就任。これまでになかった社会的意義のある質の高いクリニックを目指す。書籍、メディア掲載、講演、論文業績多数。

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