エセ医学である奇怪な「がん食事療法」が詐欺的ビジネスとして横行していることは、かねてから指摘してきましたが、「じゃあ、具体的にどのような食事がよいのか?」という問いに、「なんでもバランスよく好きなものを食べたらよい」と答えるだけでは具体性がなく、患者さんやご家族にとっても腑に落ちないケースがしばしばみられます。そこで、今回はとても良い食事本を見つけたので紹介したいと思います 。
がん専任栄養士が患者さんの声を聞いてつくった「73の食事レシピ」 (川口美喜子+青山広美 著 医学書院 2011年)
インチキな「がん食事療法」に共通していえることは、「治療としての効果はない」のみならず、患者さんにとっての「大切なQOLまでも奪ってしまう」、この2点に尽きるわけですが、この本をみてあらためて実感したのは、患者さんに「食べる喜び」「食べる楽しみ」をどのようにしたら提供できるのか、そのための具体的なエッセンスやレシピが掲載されています。
まさに、食事、食生活という患者さんにとって大切なQOLを維持するために (医療者もそう認識すべき)、がん患者さんやそのご家族が、食事について困っていることがあれば、是非ともこの本を手に取っていただきたいと思います。
実際に経験することが多い、患者さんやご家族の食事の悩みについて、とても参考になった記載内容を一部、抜粋・加筆して紹介いたします。
患者さんの要望を聞いても、必ずしもそれをそのままレシピに反映させることができるわけではありません。例えば「ごはん (主食) を食べられる」ということを「元気の証」として捉えている患者さんは「ごはんを食べたい」と希望されますが、その中には、ごはんのにおいをかぐと吐き気を催してしまう方もおられます。
■「においが気になる」(ごはん、魚、肉、煮物など) 場合の対応
・冷やして提供する
・肉・魚団子をすまし汁でつくったゼリーで包む。
・肉料理の臭みを消す工夫
① 新鮮な素材を使用
② 生姜、ネギを用いた下処理や調理
③ 団子状
④ 餃子のように包む
⑤ 揚げ物にする
・魚料理の臭みを消す工夫
① 白身魚を使用
② 味噌ホイル焼きなど、調味料を利かす
③ 団子状にする
・煮物の臭みを消す工夫
① 冬瓜、高野豆腐などと一緒に冷まして提供
② 豆腐、白菜、キャベツなどと一緒に塩で調味
・ごはんの臭みを消す工夫
① 焼きおにぎり、チャーハンなどのように焦げ目をつける
② カレーピラフのようにカレー粉で調味
③ 山葵風味のような、冷やしたお茶漬け
■「味がしない」「何を食べても苦い」場合の対応
・田楽豆腐など、味噌味は効果的
・味がしなくても、においを感じることができる場合
① ごま、柚子、レモン、酢など香りのあるものを利用
② カレーライス、チャーハン、焼きそば、お好み焼きなど、カレー粉、ケチャップやソースなどを利用して、やや刺激の強い濃い味付けにする
③ 鰹と昆布でとった濃いめの出汁で味付けをしてみる
④ 昔から好きだった味、懐かしい味を再現
⑤ コーヒー(生クリーム入り)、ミルクティー、レモンティーなど、飲みものから始めてみる
実際の患者さんの話を聞いていると、これまで美味しく食べていた和食などの料理だと味がしなくなり、カレーライスやカップラーメンのような、いわゆるB級グルメのようなわかりやすい味付けだと、美味しく食べられるという方が意外と多いことに気づきます。あと、鰻重も美味しく食べられるという方も少なくありません。あれもダメ、これもダメではなく、ご家族が考える「元気の証」を患者さんに強要するのでもなく、いろいろ工夫をしながら、少しでも笑顔でいられる楽しい食生活を送っていただきたいと願います。
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