短絡的な「慢性膵炎」の診断にはご注意を

消化器関連


膵炎と一言でいっても、程度によって様々なグラデーションがあるわけですが、その前に、本当に膵炎なのかどうかをしっかり見極める必要があります。なぜそのように申し上げるかというと、巷の医療機関で安易に「原因不明の腹痛=慢性膵炎」と診断され、漫然と投薬されている患者さんが少なくないからです。当クリニックを受診される患者さんの中にも他の医療機関で「慢性膵炎」と診断されて薬が処方されているけれども納得がいかない、全然症状がよくならないという方が絶えません。中にはなにも問題のなさそうな高校生や大学生にまで「慢性膵炎」と診断し、膵炎に対する治療薬が4種類も処方されているのをみて驚きました。○○の一つ覚えのような診療には注意すべきです。

日本膵臓学会にて、慢性膵炎臨床診断基準が10年ぶりに改訂されましたので以下、抜粋しておきます。
・膵臓 34: 279-281, 2019 http://www.suizou.org/pdf/diagnostic_criteria2019.pdf

慢性膵炎の定義

  • 慢性膵炎とは、遺伝的や環境要因、その他の危険因子を有し、実質への傷害やストレスに対して持続的な病的反応を生じる個人に起きる、膵臓の病的線維化炎症症候群である。
  • 膵臓の内部に不規則な線維化、炎症細胞浸潤、実質の脱落、肉芽組織、膵石の形成、膵管の不規則な拡張などの慢性変化が生じ、進行すると膵外分泌・内分泌機能の低下を伴う病態である。
  • 膵内部の病理組織学的変化は、基本的には膵臓全体に存在するが、病変の程度は不均一で、分布や進行性は様々である。
  • 多くは非可逆性である。腹痛や背部痛、進行例では膵内・外分泌機能不全による臨床症候を伴うものが典型的である。

分類:
・アルコール性慢性膵炎
・非アルコール性慢性膵炎(特発性,遺伝性,家族性など)

慢性膵炎の診断項目
① 特徴的な画像所見
② 特徴的な組織所見
③ 反復する上腹部痛または背部痛
④ 血中または尿中膵酵素値の異常
⑤ 膵外分泌障害
⑥ 1日60 g以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴または膵炎関連遺伝子異常
⑦ 急性膵炎の既往

慢性膵炎確診:
a,bのいずれかが認められる.
a.①または②の確診所見
b.①または②の準確診所見と,③④⑤のうち2項目以上
慢性膵炎準確診:①または②の準確診所見が認められる.
早期慢性膵炎:③~⑦のいずれか3項目以上と早期慢性膵炎の画像所見が認められる.

【慢性膵炎の診断項目】
① 特徴的な画像所見
確診所見:以下のいずれかが認められる.
a.膵管内の結石
b.膵全体に分布する複数ないしびまん性の石灰化
c. MRCP またはERCP 像において,主膵管の不規則な*1 拡張と共に膵全体に不均等に分布する分枝膵管の不規則な拡張
d. ERCP 像において,主膵管が膵石や蛋白栓などで閉塞または狭窄している場合,乳頭側の主膵管と分枝膵管の不規則な拡張
準確診所見:以下のいずれかが認められる.
a. MRCP またはERCP 像において,膵全体に不均等に分布する分枝膵管の不規則な拡張,主膵管のみの不規則な拡張,蛋白栓のいずれか
b.CT において,主膵管の不規則なびまん性の拡張と共に膵の変形や萎縮
c. US(EUS)において,膵内の結石または蛋白栓と思われる高エコー,または主膵管の不規則な拡張を伴う膵の変形や萎縮

② 特徴的な組織所見
確診所見:膵実質の脱落と線維化が観察される.膵線維化は主に小葉間に観察され,小葉が結節状,いわゆる硬変様をなす.
準確診所見:膵実質が脱落し,線維化が小葉間または小葉間・小葉内に観察される.

④ 血中または尿中膵酵素値の異常
以下のいずれかが認められる.
a.血中膵酵素*が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇あるいは低下
*膵アミラーゼ, リパーゼ, トリプシン, エラスターゼ1 など膵特異性の高いものを用いる
b.尿中膵酵素が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇

⑤ 膵外分泌障害
BT-PABA 試験(PFD 試験)で尿中PABA 排泄率の明らかな低下を認める.

⑥ 1 日60 g 以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴または膵炎関連遺伝子異常

早期慢性膵炎の画像所見
a,b のいずれかが認められる.

a. 以下に示すEUS 所見4 項目のうち,1)または2)を含む2 項目以上が認められる.
1)点状または索状高エコー(Hyperechoic foci[non―shadowing]or Strands)
2)分葉エコー(Lobularity)
3)主膵管境界高エコー(Hyperechoic MPD margin)
4)分枝膵管拡張(Dilated side branches)

b.MRCP またはERCP 像で,3 本以上の分枝膵管に不規則な拡張が認められる.

慢性膵炎症診断フローチャート
(膵臓34: 282-292, 2019 https://www.jstage.jst.go.jp/article/suizo/34/6/34_282/_pdf/-char/ja)

慢性膵炎診断フローチャート


「早期慢性膵炎」と診断するのであれば、次のようなアルゴリズムで診断項目に合致するのかを確認しておく必要があります。

早期慢性膵炎の診断アルゴリズム

早期慢性膵炎の画像所見を示しておきます (https://www.jstage.jst.go.jp/article/suizo/34/6/34_282/_pdf/-char/ja)。

ERCP画像 3 本以上の不規則に拡張した分枝膵管が観察されている
MRCP (3.0 T) 画像 3 本以上の拡張した分枝膵管が観察されている(矢印)


「腹痛や背部痛」症状があって血液のデータのみで、短絡的に「慢性膵炎」と診断されてしまうケースが少なくありません。慢性膵炎と診断をつけることで特定疾患の対象となり、特定疾患管理料が月2回算定できる経営上のご都合もあるのでしょうが、不勉強な医師ほど 「慢性膵炎」と気軽に診断する傾向があるようにみえます。くれぐれも、安易な「慢性膵炎」の診断にはご注意ください。

大場 大

大場 大

東京目白クリニック院長 医学博士 外科学・腫瘍学・消化器病学の専門医。大学病院レベルと遜色のない高度な医療が安心して受けられるクリニック診療を実践しています。

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大場 大

大場 大

外科医 腫瘍内科医 医学博士     1999年 金沢大学医学部卒業後、同第二外科、がん研有明病院、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科 助教を経て、2019年より順天堂大学医学部肝胆膵外科 非常勤講師を兼任。2021年 「がん・内視鏡・消化器」専門の 東京目白クリニック 院長に就任。これまでになかった社会的意義のある質の高いクリニックを目指す。書籍、メディア掲載、講演、論文業績多数。

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